最後の選択:延命医療を考える

延命治療を見送る選択:人生の最終段階で提供される具体的なケア

Tags: 延命治療, 終末期医療, 緩和ケア, 看取り, 人生の最終段階

延命治療を選択しないことの意味

終末期医療における意思決定は、本人だけでなくご家族にとっても非常に重く大切なテーマです。特に、「延命治療を選択しない」という判断は、時に「もう何も治療しない」「見放す」といったイメージを持たれがちですが、実際はそうではありません。

延命治療を選択しないとは、病気の回復が見込めない状況で、生命を人工的に維持するための医療行為(人工呼吸器、胃ろうによる栄養補給、昇圧剤など)を行わない、あるいは中止するという選択を指します。しかし、これは医療的な手助けをすべて止めることではなく、むしろ残された時間をその人らしく、穏やかに過ごせるようにするための「積極的なケア」へと焦点を移すことを意味します。

延命治療を選択しない場合に提供される具体的なケア

延命治療を行わない場合でも、患者様の苦痛を和らげ、尊厳を保つための様々なケアが提供されます。これは「緩和ケア」と呼ばれるアプローチが中心となりますが、生命維持を目的としないあらゆるケアが含まれます。

具体的には、以下のようなケアが行われます。

1. 苦痛の緩和

身体的な苦痛(痛み、呼吸困難、吐き気、倦怠感など)を最大限に取り除くための医療的な処置が集中的に行われます。痛み止めや吐き気止めの種類や量を調整したり、呼吸を楽にするための工夫をしたりするなど、不快な症状を和らげることが最優先されます。

2. 水分・栄養に関するケア

回復が見込めない終末期においては、無理な水分や栄養の補給がかえって苦痛を増やしたり、体に負担をかけたりすることがあります。延命治療を選択しない場合は、点滴や胃ろうによる人工的な水分・栄養補給を控えることが一般的です。しかし、これは脱水や餓死を意図するものではなく、自然な身体の変化に寄り添い、口から食べられる間は少量でも好きなものを楽しむなど、QOLを重視したケアが行われます。口腔ケアを丁寧に行い、口の中の不快感を軽減することも重要です。

3. 身体的ケア

清潔を保つための清拭や入浴介助、床ずれを防ぐための体位変換、おむつ交換など、基本的な身体的ケアは継続され、むしろより丁寧に行われます。快適な環境を整え、安楽な体勢を保つためのサポートが行われます。

4. 精神的・社会的・スピリチュアルなケア

患者様やご家族の抱える不安、恐れ、悲しみといった精神的な苦痛に対し、医療者や専門家が寄り添い、傾聴します。人生の最期にあたり、これまでの人生を振り返ったり、大切な人との時間を過ごしたりできるよう、精神的なサポートや環境調整が行われます。宗教的なことや、人生の意味といったスピリチュアルな問いについても、必要に応じて支援が提供されます。

5. チームによる多職種連携ケア

これらのケアは、医師、看護師だけでなく、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、ケアマネージャーなど、様々な専門職が連携して行われます。患者様やご家族の希望を共有し、それぞれの専門性を活かして、総合的に支える体制が整えられます。

このケアが目指すもの

延命治療を選択しない場合のケアは、単に病気の治療をしないということではありません。それは、病によって失われつつある機能や能力を補い、残された時間の中で、その人が可能な限り苦痛なく、自分らしい生活を送り、最期まで尊厳を持って過ごせるように支えることを目的としています。

家族ができること

ご家族は、患者様本人の意思や価値観を医療チームに伝え、ケアの方針について共に話し合う重要な役割を担います。また、患者様に寄り添い、話を聞いたり、手を握ったりといった精神的なサポートは、何よりも患者様の安心につながります。疑問や不安があれば、遠慮なく医療チームに質問し、納得いくまで話し合うことが大切です。

まとめ

終末期において延命治療を選択しないという判断は、最期を諦めることではなく、積極的なケアによって質の高い時間を過ごすための大切な選択肢の一つです。そこには、苦痛の緩和、QOLの維持、そして何よりもその人の尊厳を守るための温かい医療とケアが存在します。このことを理解し、ご家族で話し合い、医療チームと連携しながら、本人にとって最善の選択を共に見つけていくことが、後悔のない看取りにつながるでしょう。