延命治療を選択後の暮らし:医療機器との向き合い方と家族のサポート
終末期医療の選択を考えるにあたり、延命治療という選択肢を選ぶことが、その後の本人やご家族の生活にどのような影響をもたらすのか、具体的なイメージを持つことは難しいかもしれません。回復の見込みが乏しい状況で延命治療を選択した場合、そこには様々な医療機器が関わり、それまでとは異なる「暮らし」が始まります。この記事では、延命治療を選択した後の具体的な医療とケア、そして本人とご家族がどのように向き合っていくのかについて解説します。
延命治療と医療機器
延命治療とは、生命を維持するために行われる医療行為全般を指しますが、終末期医療の文脈では、疾患の根本的な回復が期待できない状態にもかかわらず、生命機能を維持するために行われる医療を指すことが多くあります。この際、様々な医療機器が使用されることが一般的です。
主に用いられる医療機器には、以下のようなものがあります。
- 人工呼吸器: 自力での呼吸が困難になった場合に使用されます。気管にチューブを挿入し、機械の力で肺に空気を送り込みます。これにより呼吸は維持されますが、本人は声を出して会話することが難しくなり、身体の自由も制限されます。継続的な痰の吸引などのケアが必要になります。
- 経管栄養(胃ろう、中心静脈栄養): 口から食事や水分を摂ることが難しくなった場合、チューブやカテーテルを使って栄養を補給します。胃ろうは胃に直接チューブを挿入する方法、中心静脈栄養は太い血管から栄養剤を点滴する方法です。栄養状態は維持されますが、食事の楽しみは失われ、機器やカテーテルの管理が必要になります。
- 輸液(点滴): 水分や電解質の補給、あるいは薬剤投与のために行われます。栄養補給(中心静脈栄養)とは目的が異なる場合もありますが、生命維持に不可欠となることがあります。
これらの機器の使用は、生命の維持には寄与しますが、同時に身体の自由を大きく制限し、本人にとって不快感や苦痛を伴う場合もあります。
医療機器装着後の本人の生活
医療機器を装着した後の本人の生活は、意識レベルや病状によって大きく異なります。
意識が保たれている場合、人工呼吸器による会話の制限や、経管栄養による食事の喪失は、本人にとって大きな精神的負担となり得ます。しかし、状態によっては、文字盤やジェスチャー、筆談、あるいは医療機器の調整を通じて、限定的でも意思疎通を図ることが可能な場合もあります。医療チームやご家族との関わりが、本人の精神的な安定にとって非常に重要になります。
意識レベルが低下している場合でも、適切な体位変換や清潔ケア、苦痛緩和のためのケアは継続して行われます。感覚刺激(声かけ、触れるなど)が本人に届いている可能性もあります。
いずれの場合も、医療機器に囲まれた環境での生活となり、それまでの日常とは大きく変化します。
家族の関わりとサポート
延命治療を選択された場合、ご家族は本人のケアにおいて非常に重要な役割を担います。
- 精神的なサポート: 本人に声かけをしたり、手を握ったりするなど、本人の存在を感じられるような関わりは、意識レベルに関わらず本人にとって支えとなり得ます。
- ケアへの参加: 医療チームから説明を受け、痰の吸引や体位変換、口腔ケアなど、可能な範囲でケアに参加することで、ご家族も本人に関わっているという実感を得られます。
- 医療チームとの連携: 本人の状態や小さな変化を医療チームに伝えたり、治療やケアに関する疑問や不安を相談したりすることが大切です。定期的なカンファレンスなどに参加し、情報共有を行うことも有効です。
- ご家族自身のケア: 長期間にわたる看病は、ご家族にとって身体的、精神的に大きな負担となります。ご家族自身も休息を取り、外部のサポート(医療ソーシャルワーカー、地域の相談窓口など)を活用することが重要です。
医療チームとの対話の重要性
延命治療中の本人の状態は常に変化する可能性があります。医療チームは本人の状態を評価し、必要に応じて治療計画を見直します。ご家族は、本人の状態について医療チームから十分な説明を受け、疑問点を解消することが不可欠です。
- 病状と予後の理解: 現在の病状、今後の経過予測、延命治療の効果と限界について正確な情報を得ます。
- 苦痛緩和について: 医療機器の使用や病状に伴う苦痛がある場合、どのように緩和されるのかを確認します。鎮静についても理解しておくことが重要です。
- ケアの方針: 日常的なケアの方針や、急変時の対応について医療チームと認識を共有します。
- 倫理的な悩み: 延命治療を続けることへの疑問や倫理的な悩みがある場合、医療倫理の専門家や医療ソーシャルワーカーに相談することも可能です。
まとめ
延命治療を選択することは、生命を維持するための重要な決断ですが、その後の本人とご家族の「暮らし」に大きな影響をもたらします。医療機器に囲まれた生活の中で、本人の尊厳を守り、可能な限り穏やかに過ごせるようサポートするためには、延命治療の実際を理解し、医療チームと密接に連携し、ご家族自身も支え合うことが不可欠です。
この厳しい状況の中で、ご家族だけで抱え込まず、医療や介護の専門家、地域の相談窓口などを積極的に活用することが、本人にとってもご家族にとってもより良い時間につながる一助となるでしょう。この情報が、ご家族での話し合いや将来の準備を進める上での一助となれば幸いです。