最後の選択:延命医療を考える

もしもの時の延命治療:差し控え・中止の判断は誰が、どう行うのか

Tags: 終末期医療, 延命治療, 差し控え, 中止, 意思決定, 家族の役割, ACP, リビングウィル, 判断プロセス

高齢の親を持つ世代の不安に向き合う

人生の最終段階における医療について考えることは、多くの人にとって容易ではありません。特に、高齢の親を持つ世代は、親の健康状態の変化を目の当たりにする中で、漠然とした不安や疑問を抱えることがあります。「もしもの時」に、親はどのような医療を望むのだろうか、家族としてどのように関われば良いのだろうか、延命治療について話し合うにはどうすれば良いのだろうか、といった思いを巡らせる方もいらっしゃるかもしれません。

終末期医療において、延命治療を「差し控える」、あるいは既に開始している治療を「中止する」という選択肢が検討される場合があります。これらの言葉には、重い響きがあり、どのように判断がなされるのか、誰が決定するのかについて、十分な情報がないために不安を感じることも少なくありません。

この記事では、終末期医療における延命治療の差し控え・中止について、その基本的な考え方、判断が行われるプロセス、そして家族が知っておくべきことについて解説します。これらの情報を得ることで、終末期医療に対する理解を深め、ご家族で話し合うきっかけとしていただければ幸いです。

延命治療の差し控え・中止とは

まず、「延命治療の差し控え」と「中止」という言葉の意味を確認しておきましょう。

これらの選択は、単に「治療をやめる」ということではなく、患者さん本人の状態、予後、そして何よりも本人の意思や価値観を尊重し、その人にとって最善のケアを追求するプロセスの中で検討されるものです。回復の見込みがない、あるいは治療が本人の苦痛を増大させるだけで、QOL(生活の質)を著しく低下させるような場合に、医療的な観点と倫理的な観点から慎重に判断が行われます。

判断は誰が、どのように行うのか

延命治療の差し控え・中止の判断は、患者さん本人、家族、医療者を含めた多職種チームの間で、慎重な話し合いを重ねながら行われます。個人の尊厳を最大限に尊重し、本人の意思を最優先するというのが基本的な考え方です。

厚生労働省が示している「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、以下の原則が示されています。

  1. 本人の意思決定の尊重:
    • 医療・ケアの方針決定は、患者さん本人の意思を基本とします。
    • 本人が明確な意思表示ができる場合は、その意思が最も尊重されます。医療者は、本人の状態や予後、選択肢となる医療行為の内容について、分かりやすく丁寧に説明し、本人が十分に理解した上で意思決定できるよう支援します。
  2. 本人の意思が確認できない場合:
    • 本人が意思表示できない場合は、家族等が本人の推定意思を十分に尊重し、本人にとって何が最善かを家族と医療者の間で繰り返し話し合いを行います。
    • 推定意思が不明な場合でも、家族等と十分に話し合い、本人の状態等に応じた最善の医療・ケアについて合意形成を図ります。
    • 家族等がいない場合や、家族等の意見が一致しない場合、あるいは医療者との話し合いの中で合意が得られない場合などは、医療機関内に設置された倫理委員会などを活用し、慎重に検討を行います。
  3. 多職種チームによるアプローチ:
    • 医師だけでなく、看護師、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど、様々な専門職からなる医療・ケアチームが連携し、医学的な情報提供、精神的なサポート、社会的な調整など、多角的な視点から患者さんと家族を支えます。
    • チーム内で十分に検討を重ねた上で、その内容を患者さんや家族に説明し、共に意思決定を進めます。

このように、判断プロセスは特定の誰か一人が決定するのではなく、本人、家族、そして医療専門職が共同で、患者さんにとって最も望ましい形を模索する対話の過程であると言えます。

家族が知っておくべきこと

高齢の親を持つご家族として、この判断プロセスにおいて重要な役割を担う可能性があります。事前に準備しておくべきこと、心掛けておきたい点があります。

まとめ

終末期における延命治療の差し控え・中止という選択は、回復の見込みがない状況で、患者さん本人の尊厳とQOLを最優先するために検討される重要な判断です。この判断は、特定の誰か一人が行うのではなく、本人、家族、そして多職種からなる医療チームが、医学的な根拠と倫理的な配慮に基づき、十分な話し合いと合意形成を経て行われます。

高齢の親を持つ私たちにとって、この現実から目を背けずに、事前に親の意向を聞き、家族間で話し合い、医療者との信頼関係を築いておくことが、もしもの時に後悔のない選択をするための重要な鍵となります。この記事が、ご家族で終末期医療について考え、語り合うための一助となれば幸いです。