親と話す終末期医療:難しいテーマを家族で共有するための切り出し方
終末期医療について、なぜ家族で話し合うことが大切なのか
人生の最終段階における医療やケアについて、ご本人やご家族が事前に話し合い、共有しておくことの重要性は広く認識されるようになりました。しかし、実際に親御さんと「終末期医療」というテーマについて話し始めることに、難しさを感じていらっしゃる方は少なくないでしょう。
特に、親御さんがお元気なうちは「まだ先の話」「縁起でもない」と感じたり、親御さんの意向が分からず踏み出せなかったり、あるいは多忙な日常の中でそのような機会を持てなかったりすることもあるかと存じます。
しかし、もしもの時に備え、親御さんの意思を尊重した選択をするためには、ご本人とご家族が、そしてご家族同士が、お互いの考えや希望を知っておくことが非常に重要です。話し合いは、いざという時にご家族が戸惑うことを減らし、後悔のない選択をするための大切な準備となります。
この難しいテーマについて、どのように話し合いを始めれば良いのでしょうか。ここでは、終末期医療について家族で話し合うための具体的な切り出し方や、会話を進める上でのヒントをご紹介いたします。
終末期医療の話し合いを始める適切な時期と場所
終末期医療に関する話し合いは、早すぎるということはありません。むしろ、親御さんが元気で、ご自身の考えをしっかりと伝えられるうちに始めることが理想的です。病気になってから、あるいは状態が悪化してからでは、十分な話し合いが難しくなる可能性があります。
話し合いの場所としては、ご自宅など、家族全員がリラックスして話せる環境を選ぶのが良いでしょう。時間にも気持ちにも余裕のある時を選ぶことで、穏やかに、そして深く話し合うことができます。
具体的な切り出し方のヒント
終末期医療という言葉を正面から出すのはハードルが高いと感じるかもしれません。いくつかの具体的な切り出し方をご紹介します。
1. 日常の出来事やメディアをきっかけにする
テレビ番組やニュースで医療や介護に関する話題が出た時、あるいは知人の経験談などを耳にした時をきっかけに、「そういえば、こういうことって、うちでも考えておかないといけないのかな」といった形で自然に話を始めることができます。本や映画で終末期医療や看取りがテーマになっているものを見ることも、会話の糸口になるかもしれません。
2. ご自身の話題から始める
ご自身の老後の希望や、もしもの時にどのような医療を受けたいかといった話を、親御さんに聞いてもらう形で始めることも有効です。「最近、自分の将来について考えることがあって、もしもの時は延命治療は望まないかな、と思っているんだ。お父さん/お母さんはどう考えているの?」のように、ご自身の話題として語ることで、親御さんもプレッシャーを感じずに話しやすくなる場合があります。
3. 親御さんの過去の経験や価値観を尋ねる
親御さんのご友人やご親戚の看取りの経験などについて、「〇〇さんの時、大変だったって聞いたけど、お父さん/お母さんはどう感じた?」といった形で尋ねてみるのも一つの方法です。そこから、親御さんが人生の最期についてどのような考えを持っているのか、どのような価値観を大切にしているのかを探ることができます。直接的な医療の話ではなく、人生観や死生観といった広いテーマから入ることで、会話が進みやすくなることがあります。
4. 「心配している」という気持ちを素直に伝える
「お父さん/お母さんのことが大切だから、将来のことで心配なことがあるんだ」と、正直な気持ちを伝えることも、話し合いのきっかけになります。具体的な心配事(例えば、体調のこと、将来的な生活のことなど)に触れながら、「もしもの時、お父さん/お母さんがどうしたいのか、知っておきたいんだ」と伝えてみましょう。ただし、親御さんに過度な心配をかけないよう、言葉を選びながら伝える配慮が必要です。
5. エンディングノートや関連書籍を活用する
書店でエンディングノートや終末期医療に関する本を一緒に見てみたり、購入して話題にしてみたりするのも良いでしょう。ノートの項目を一緒に眺めながら、「これ、考えてみたことある?」と問いかけるなど、ツールを利用することで自然にテーマに入ることができます。
話し合いを進める上での心構え
終末期医療に関する話し合いは、一度で全てのことを決めようとせず、継続的に行うことが大切です。一度話したら終わりではなく、時間をおいて繰り返し話し合うことで、お互いの理解が深まります。
また、最も重要なのは、親御さんの意思を尊重する姿勢を持つことです。ご家族の希望や意見を伝えることも大切ですが、最終的に親御さんの人生の選択であるという視点を忘れないようにしましょう。意見が対立することもあるかもしれませんが、感情的にならず、お互いの考えを丁寧に聞き合う姿勢が求められます。
もし、家族だけで話し合うのが難しい場合は、ケアマネジャー、地域包括支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)など、専門家に相談することも検討してください。専門家は、話し合いの場に同席したり、情報提供や助言を行ったりするなど、サポートしてくれます。
話し合った内容の記録の重要性
話し合った内容は、忘れてしまったり、後で曖昧になったりしないよう、何らかの形で記録しておくことをお勧めします。エンディングノートに記入したり、リビングウィル(事前指示書)を作成したりすることも有効です。記録があることで、親御さんの意思がより明確になり、もしもの時に医療者やご家族がその意思を尊重した判断をしやすくなります。
まとめ
親御さんとの終末期医療に関する話し合いは、始めるまでが一番難しいかもしれません。しかし、一歩踏み出し、対話を始めることで、ご家族にとってかけがえのない安心感が生まれるはずです。今回ご紹介したヒントを参考に、ぜひ、できることから会話を始めてみてください。それは、親御さんの尊厳を守り、ご家族が後悔なく最期を迎えられるための、大切な一歩となるでしょう。