親が重篤な状態になった時:家族が知るべき医療選択と話し合いの進め方
親が重篤な状態になった時の不安
いつか来るかもしれない親の「もしも」の時について、漠然とした不安を抱えている方は少なくありません。特に、親が突然病気で倒れたり、意識がなくなったりして、ご自身で医療に関する意思を伝えられなくなった場合、ご家族は戸惑い、どのように対応すべきか分からなくなることがあります。
このような重篤な状態は、穏やかな終末期とは異なり、緊急性が高い状況であることが一般的です。突然、医師から厳しい病状の説明や、様々な医療処置に関する選択肢を提示されることになります。この時、ご家族は精神的なショックを受けながら、短時間で重要な決断を迫られる可能性があります。
本記事では、親御さんが重篤な状態に陥り、ご自身で医療の意思決定が困難になった場合に、ご家族が知っておくべきこと、そして医療者とどのように向き合い、話し合いを進めていくべきかについて解説します。事前にこうした状況を想定し、心構えをしておくことは、いざという時に冷静に対応するために非常に重要です。
重篤な状態における医療意思決定の難しさ
重篤な状態とは、病気や怪我により生命が危険な状況であり、多くの場合、患者さん本人が意識を失っている、あるいは意識があっても十分に意思を伝えることができない状態を指します。このような状況では、本人の明確な意思を確認することが困難になります。
本来、医療における意思決定は患者さん本人が行うべきものです(自己決定権)。しかし、それができない場合、誰が、どのような基準で意思決定を行うのかが問題となります。日本では法的な枠組みが十分に整備されているわけではありませんが、医療現場では、事前に本人の意思が確認されている場合はそれを尊重し、そうでない場合は家族が本人に代わって意思決定を支援することが一般的です。
この時、家族は本人の過去の言動や価値観、人生観などを考慮し、「もし本人がこの状況だったら、どのような選択を望むだろうか」という「推定意思」を尊重する役割を担います。しかし、推定意思の判断は難しく、家族の間で意見が分かれることも少なくありません。
家族の役割と医療者とのコミュニケーションの重要性
親御さんが重篤な状態になった時、ご家族は、混乱や悲しみ、不安といった様々な感情に直面します。その中で、医療者からの説明を聞き、治療方針について判断を下さなければなりません。
このような状況において、ご家族には以下の役割が期待されます。
- 本人の推定意思を伝える: 事前に話し合っていたことや、本人の価値観、人生観などを医療者に伝えます。リビングウィル(事前指示書)やACP(アドバンス・ケア・プランニング)での記録があれば、それを提示します。
- 医療者からの説明を理解する: 病状、予後、提案される治療の選択肢、それぞれの目的、効果、リスク、代替案などについて、医療者から十分に説明を受けます。分からないことや疑問点は遠慮なく質問し、理解できるまで説明を求めましょう。
- 家族間での話し合い: 兄弟姉妹など他の家族がいる場合、情報を共有し、全員で十分に話し合います。意見の相違がある場合は、本人の利益を最優先に、冷静に話し合い、可能な限り合意形成を目指します。
- 医療者との協働: 医療者は、患者さんの生命を救うために最善を尽くそうとしますが、同時に患者さんの尊厳やQOLも重視しています。家族は医療者と信頼関係を築き、共に患者さんにとって最善の選択肢を探るパートナーとして話し合う姿勢が重要です。
具体的な医療選択とその意味
重篤な状態において検討される可能性のある医療処置には、以下のようなものがあります。これらの処置は、生命を維持することを主な目的としますが、その後の回復の見込みやQOLに大きく影響する場合があります。
- 心肺蘇生(CPR): 心臓や呼吸が停止した場合に行う処置です。救命を目的としますが、重篤な状態では成功率が低い場合や、救命できても重い後遺症が残るリスクがあります。
- 人工呼吸器装着: 自力で呼吸が困難な場合に使用します。生命維持に不可欠な場合がありますが、長期使用は合併症のリスクや、本人の苦痛につながる可能性もあります。一度装着すると、状態によっては外すことが困難になる場合もあります。
- 昇圧剤使用: 血圧が維持できない場合に使用します。生命維持に不可欠な場合がありますが、臓器への負担を増やす可能性もあります。
- 経管栄養/中心静脈栄養: 口から食事を摂れない場合に行います。栄養を供給し生命を維持する目的がありますが、誤嚥性肺炎のリスクや、本人の状態によっては苦痛を伴うこともあります。
これらの医療処置について、医師からはその有効性や限界、予測される経過などが説明されます。ご家族は、これらの情報を基に、本人の推定意思や、どのような状態での延命を望むか(あるいは望まないか)といった点も考慮して、医療者と共に最善の選択肢を検討していくことになります。単に「延命するか、しないか」という二者択一ではなく、「どのような状態での延命を、どこまで行うか」といった、より具体的な話し合いが必要です。
事前の準備が家族を助ける
親御さんが重篤な状態になってからでは、十分な情報を得たり、家族間でじっくり話し合ったりする時間が限られてしまいます。このような緊急時に後悔のない選択をするためには、やはり事前の準備が不可欠です。
- 親御さんの意思を聞いておく: 親御さんが元気なうちに、もしもの時にどのような医療やケアを望むか、あるいは望まないか、大切にしている価値観は何かなどを話し合っておきましょう。直接的な表現が難しければ、「人生の最期をどこで過ごしたいか」「どのような状態でいたいか」といった問いかけから始めることもできます。
- リビングウィルやACPを作成する: 話し合った内容を記録に残しておくことで、本人の意思がより尊重されやすくなります。法的な効力は限定的であっても、医療者や家族にとって重要な指針となります。
- 家族で話し合っておく: 兄弟姉妹など、医療やケアに関わる可能性のある家族間で、親の意思や自分たちの考えを共有しておきましょう。いざという時の意見の対立を防ぐためにも、事前に話し合いの場を持つことが大切です。
親御さんが重篤な状態になった時、ご家族は大きな困難に直面します。しかし、事前に情報を得て、親御さんやご家族で話し合いを重ねておくことは、その困難を乗り越え、後悔のない選択をするための重要な助けとなります。ぜひ、この機会に、ご家族で終末期医療について話し合う一歩を踏み出してみてください。