終末期医療の選択、その後の後悔:どう理解し、どう向き合うか
終末期医療の選択に伴う後悔について考える
ご高齢の親御様を持つ世代にとって、親御様の終末期医療について考えることは、避けて通れない課題の一つです。延命治療を選択するか、あるいは別の方法を採るか。これらの決定は、多くの情報、家族の意見、そして何よりも親御様ご自身の意思を尊重しながら進める必要があり、非常に難しい局面となります。
そして、一つの選択をした後で、「本当にこれでよかったのだろうか」「もっと何かできることはあったのではないか」といった後悔の念や複雑な感情が湧き上がってくることがあります。このような感情は、終末期医療の決定に関わった多くの方が経験しうることです。この記事では、終末期医療の選択に伴う後悔という感情について、そのメカニズムを理解し、どのように向き合っていくかについて考察します。
なぜ終末期医療の選択は後悔を生みやすいのか
終末期医療の選択が後悔の感情につながりやすい背景には、いくつかの要因が考えられます。
「最善の選択」の不確かさ
終末期における医療やケアは、常に最善の結果が保証されるものではありません。病状は刻一刻と変化し、予期せぬ経過をたどることもあります。その中で、限られた情報や時間の中で下した決定が、必ずしも期待通りの結果につながらなかった場合、「あの時別の選択をしていれば」という思いが生じやすくなります。
医療への期待と現実とのギャップ
現代医療は進歩していますが、全ての病状を回復させられるわけではありません。特に終末期においては、医療の目的が延命だけでなく、苦痛の緩和やQOL(生活の質)の維持へと移行することが多くあります。しかし、医療によって回復することへの期待が強い場合、現実とのギャップに直面し、選択への後悔につながることがあります。
家族間での意見の違い
終末期医療の決定は、家族全員が全く同じ意見を持つとは限りません。異なる意見を持つ中で、最終的に一つの決定に収束させるプロセスは、家族にとって大きな負担となります。決定後、意見が採用されなかった家族、あるいは決定を主導した家族の双方に、何らかの形で後悔や心のしこりが残ることがあります。
故人との関係性や未解決の思い
親御様とのこれまでの関係性や、伝えきれなかった思い、あるいは生前の親御様の漠然とした希望などが、終末期の選択と複雑に絡み合うことがあります。後悔の念は、単に医療的な選択の問題だけでなく、故人との関係性や自身の内面に深く根差している場合も少なくありません。
後悔の感情にどう向き合うか
終末期医療の選択に伴う後悔は、多くの場合、大切な方を失ったことによる悲しみ(グリーフ)のプロセスの一部として現れます。この感情にどう向き合っていくかは、心の平穏を取り戻す上で重要なステップとなります。
感情を否定せず受け入れる
後悔の感情は辛いものですが、「後悔してはいけない」と感情を否定するのではなく、まずはその感情が存在することを認め、受け入れることが大切です。「これでよかったのか」と感じることは、故人を大切に思っていた証でもあります。
「完璧な選択は不可能である」という理解
終末期医療において、誰にとっても文句なしの「最善」かつ「完璧」な選択をすることは、現実的に極めて困難です。様々な制約や不確実性の中で、その時点での最善を尽くした結果として、現在の状況があるのだという理解を持つことが助けになります。
選択のプロセスを振り返る
なぜその選択をしたのか、当時の状況、親御様の状態、医師からの説明、家族との話し合いの内容など、決定に至るまでのプロセスを冷静に振り返ってみましょう。その時の状況や、あなたがどのような考えを持って判断したのかを再確認することで、自身の行動を肯定的に捉え直せる場合があります。
信頼できる人に話す
後悔の感情を一人で抱え込まず、配偶者、兄弟姉妹、友人など、信頼できる家族や友人に気持ちを打ち明けてみましょう。話すこと自体が気持ちの整理につながり、共感を得ることで心が軽くなることがあります。また、医療ソーシャルワーカーやグリーフケアの専門家など、専門的な視点からのサポートを受けることも有効です。
故人との関係性を再構築する
後悔の感情は、故人への思いと切り離せない場合があります。故人との楽しかった思い出を振り返る、写真を見る、遺品を整理するなど、故人との関係性を肯定的な形で再構築する時間を持つことも、心の癒しにつながります。
家族での共有と将来への学び
終末期医療の選択に関する後悔は、家族の間でも共有されうることです。お互いが抱える後悔や不安な気持ちを話し合い、共感し合うことは、家族の絆を深め、支え合う力となります。ただし、話し合いの際には、特定の家族を責めたり、過去の決定について責任を追及したりするような形にならないよう、お互いの気持ちを尊重する姿勢が不可欠です。
また、今回の経験を、自身の将来や他の家族のケアについて考える上での学びとすることも重要です。終末期医療やケアについて事前に話し合うこと(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)や、意思表示の方法(リビングウィルなど)について理解を深め、準備を進めることは、将来的な後悔を減らすための一歩となります。
終わりに
終末期医療の選択に伴う後悔は、誰にでも起こりうる自然な感情です。この感情と向き合い、乗り越えていく過程は、決して容易ではありません。しかし、感情を否定せず、理解し、適切なサポートを得ながら進むことで、心の平穏を取り戻し、故人への感謝と共に前向きに歩みを進めることができるでしょう。この記事が、皆様がご自身の、そして大切なご家族の終末期について考える上で、一つの助けとなれば幸いです。